何気なくすみっこに視線をやると、すみっこに子供がいる。
必然的に目があう。
ひょうきんな顔をしてみせるが、たいがい泣き出す。
子供のお母さんが迷惑そうな顔をする。
自分では面白いと思っているんだけど、そんなに恐ろしい表情になっているのだろうか。
僕は将来保父さんになりたいと思っているので、このままでは死活問題だ。
友だちの根本君と「面白い顔を研究しよう会」なるものを結成して
月に1回真剣に面白い顔について議論し、研究した。
そして志村けんを最終目標に僕たちは夏の大会に向けて猛練習した。
そして1ヵ月後―――。
すっかり面白い顔マスターの風格をただよわせた僕と根本君は
町にくり出し、子供を絶対に笑わせてやろうと意気込んでいた。
さっそく、ベビーカーに眠る赤ん坊に走りより
僕たちはいっせいに面白い顔を披露した。
すると、赤ん坊は目を覚ましきょとんとした表情をした。
それは、笑うでもなく泣くでもなく、タダ呆然と僕らを見上げている。
「しまった!笑いのレベルが高すぎたか!?」
僕たちはあせりを隠せないでいると、ベビーカーの母親も呆然と僕らを
いや、僕らの頭上を見つめている。
「ん?何だ?」
上を見上げると、そこには驚愕の光景があった。
なんと、牛(しかも乳牛)の頭だけが空中に浮いている。
なぜ牛…、しかもなぜ今…
さまざまな思いが交錯していると誰かが
「危ない!」
と叫ぶと同時に根本君の頭に牛の頭がすごい勢いで落ちてきた。
根本君の頭はつぶされたのだろうか?
でも、そんな心配をよそに牛の頭になった根本君はけっこう普通だった。
そしてその一部始終を見ていた人々はいっせいに笑った。
馬鹿にした笑いではなく、賛辞の笑いだ。
根本君は照れくさそうに頭をかき、
「なんかごめんな…オレだけ面白くなって」
と言った。
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